自然妊娠による出産数は30歳から徐々に減少し、35歳を過ぎると明らかに低下します。そして40歳を過ぎると急速に減少し、45歳を過ぎると、生殖補助医療を受けても妊娠することはきわめて少ないとされています(一般社団法人日本生殖医学会データより)。
一方で、体外受精による出産率は30歳で20%、35歳で16%、40歳で8%、45歳で0.6%になっています(日本産科婦人科学会)。もちろん加齢だけでなく、環境や生活習慣、男性側の原因などによっても大きく出産率は変化します。
身体年齢が大切
35歳を過ぎると自然妊娠による出産は低下しますが、全ての人に当てはまるわけではありません。実際の年齢よりも身体年齢が大事で、35歳であっても20代の身体年齢の方もいれば、40代の身体年齢の方もいらっしゃいます。その身体年齢の進むスピードの違いには、食事や運動の生活習慣が大きく影響しています。また東洋医学では、実年齢ではなく、身体年齢を重視しており、正しい知識と経験に基づいた不妊鍼灸治療によって身体年齢の進むスピードを緩めるケアが可能です。
一方で、不妊に悩まれている方に大きく関係しているのが「卵子」の数です。卵子の数は、お母さんのお腹から生まれた時に200万個あったものが、思春期(初経)には約30万個、その後は生理の度に年齢とともに減少し、35歳時では約5から7万個、40歳で約5千個、そして閉経間近には約1千個まで減少します。
この卵子は新たに増やすことができず、すでに持っていた卵子しかありませんが、妊娠に大切なのは卵子の数ではなく、その卵子の質です。卵子も元になる原始卵胞は、酸素や栄養が供給を受けながら排卵まで180日以上かけて卵巣内で育ちます。そのため、質の良い卵子となるためには、安定的に酸素や栄養が供給されていることが大事です。しかし卵巣へ酸素や栄養を供給している非常に細い血管は、身体の状態や加齢によって影響を受けやすく、供給が不安定になると酸化ストレスなどによってダメージを受けて、それが不妊の原因と考えられています。
妊娠と女性ホルモン
年を重ねるほど妊娠するためには正しい知識が必要です。身体年齢にも大きく関わるのが女性ホルモンです。女性ホルモンは、卵巣でつくれ、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があります。
エストロゲンの働きは、子宮などの生殖器官を発育・維持し、女性らしい丸みのある体型をつくる作用を持っています。プロゲステロンには、基礎体温を上げ受精卵が着床しやすいように子宮内膜を安定化させる作用があります。また妊娠を維持する働きや乳腺を発達させる働きがあります。つまり女性ホルモンは妊娠の成立と維持に欠かせない役割があります。
20代から30代前半では、女性ホルモンの分泌量が保たれており、子宮の状態や卵子の数や質ともに良い状態と言えます。30代後半になるとホルモンの分泌量や卵巣機能の低下が起こります。また子宮筋腫、子宮内膜症などの婦人科系トラブルも増え妊娠に大きく影響します。40代になるとホルモンの分泌量や卵巣機能の低下だけでなく、妊娠して流産してしまう方が増え、さらに40代後半になれば女性ホルモンのバランスが崩れて、更年期障害に悩まれる方が多くなります。
月経も女性ホルモンの作用によってコントロールされており、その月経周期は、卵胞期、排卵期、黄体期、月経の4つに分かれています。卵胞期は卵巣の中で原始細胞が卵胞に育つ時期、十分に卵胞が育ち子宮内膜が厚くなると排卵が起こる排卵期が訪れます。そして排卵が起こると卵胞が黄体に変化する黄体期を迎えます。この時点で黄体から分泌されるプロゲステロンによって、受精卵が着床しやすいように子宮内膜が整えられます。受精卵が着床しなかった場合には、排卵の1週間後ぐらいからプロゲステロンが減少し、さらに1週間後ぐらいに月経が始まります。
これらの女性ホルモンの働きは基礎体温によって判断でき、エストロゲンの働きが活発なときが『低温期』、プロゲステロンの働きが活発なときが『高温期』です。そのため基礎体温を測ることでどちらの女性ホルモンが活発になっているかが把握でき、例えば基礎体温が高くなると、その2週間後に生理が来ると考えることができます。また高温期が2週間以上続いて生理が来ない場合は、妊娠の可能性が高くなります。
女性ホルモンのバランスを整える
女性ホルモンの分泌が乱れから月経周期に異常が起こることがよくあります。また女性ホルモンの乱れによる症状として、更年期障害やPMS(月経前症候群)があります。特に更年期になるとエストロゲンの分泌量が急激に減るため、イライラ、のぼせ(ホットフラッシュ)、ほてり、めまい、発汗など多様な症状を引き起こします。またPMS(月経前症候群)は、疲労感、だるさ、むくみだけでなく、イライラなどの精神的な症状が出現することがあります。女性ホルモンのバランスを整えるためには、適度な運動、睡眠不足の解消、栄養バランスの良い食事を心掛けましょう。
東洋医学では、女性ホルモンのバランスを整える方法として、女性ホルモンの乱れや生理周期を整える「周期調節法」や、卵巣への栄養供給を安定させるための骨盤内の血流を改善する「中りょう穴刺鍼」などがあります。
余談ですが、卵巣への血流量の変化を確認した実験があります。実験ではラットの様々な部位に鍼を刺入して電気刺激を与え、刺激の強やさや卵巣の血流量を計測しました。最も有効な場所が下肢と腹壁だったことが分かり、この二つへの鍼通電刺激が卵巣の血流量を増すことが明らかになっています。また2006年の日本生殖医学会にて発表された内容では、仙骨部への鍼刺激(中りょう穴刺鍼)で、子宮動脈の血流改善に関与したことが証明され、実際にも妊娠に至らなかった人18名に対して「中りょう穴刺鍼」を併用したところ、併用治療開始後6ヶ月以内に7人が妊娠に至ったという結果になっています。
また当院では、高周波温熱やお灸によって、お腹を温めることが卵巣動脈を拡張して血流を改善することが可能であると考えています。卵巣は腹壁から深さ8センチのところにあり、表面を多少温めても卵巣動脈の拡張を起こすことができません。そこで深部加温によってお腹の深いところから温めることで血流を改善し、卵巣内の栄養の供給を安定させることで、妊娠しやすい身体づくりになります。
「妊活に冷えは大敵」といわれる所以は、血流が滞ると子宮に血液が十分行き届かず、子宮の本来の機能を発揮できなくなるからです。また子宮や卵巣が冷えることで自律神経のバランスも乱れます。さらに代謝や免疫力などの機能が低下することや、イライラや不安などの心の不調も起こりやすくなります。特に慢性的な首肩こり、頭痛、倦怠感、むくみなどの症状がある場合は、血流を改善して、体を温めていくを心掛けましょう。
不妊に効果的なツボ
妊娠すると普段よりも体が繊細な状態になります。使うツボについては当院の担当鍼灸師にご相談ください。
三陰交(さんいんこう)
三陰交(さんいんこう)
東洋医学では陰陽説という考え方があり、身体の外側を陽、内側を陰として分けています。三陰交には陰の経絡である「肝」「脾」「腎」の3つが交わるところにあるツボです。
「肝」の主な働きは、気を動かし血を流すことです。そのため「肝」の機能が弱まると、気の流れが悪くなり、血の流れも滞ります。結果的に、子宮や卵巣へ必要なホルモンが運ばれにくくなると考えます。
「脾」の主な働きは、消化吸収を担い、全身に栄養を運び、血が外へ漏れないように循環させる働きがあります。特に妊娠に重要な血を巡らす機能として非常に大きな役割をしています。脾の機能が下がると、気・血が足りなくなり、エネルギー不足となり、妊娠するためのエネルギーも足りなくなります。
「腎」に蓄えられた精(腎精)は発育や生殖に深く関わっています。腎の機能が下がってしまうと、月経周期の乱れや精に必要なエネルギーが足りなくなってしまい、妊娠に影響すると考えます。
このように妊娠には、「肝」「脾」「腎」の3つん働きが関係しており、三陰交を刺激することで、これらの機能の改善が期待できます。ただし三陰交は、妊娠初期は使うことができないツボでもあるため、担当の鍼灸師にご相談ください。